戦争ビジネスという巨大市場

 1. 米国のディレンマ シーア派の主張も受け入れるかベトナム化か
 2. 邦人誘拐と自衛隊
 3. 戦争関連業務の民間委託と外国委託


1.米国のディレンマ ― シーア派の主張も受け入れるかベトナム化か

 イラク情勢が滅茶苦茶だ。もうベトナム戦争化の様相を見せ始めている。混乱が収まる方向に進む可能性もあるが、それは米国がシーア派に譲歩することでしか得られないだろう。今回の暴動は、新しい政府構想の過程で、統治者が国民の6割いるシーア派の力をできるだけ削ごうとしたためシーア派が反発して起きたものだ。だから、そこのところに戻らないと問題は解決しない。でもそれだと、米国は戦争を仕掛けて勝ったと思ったけれど、けっきょく負けに等しい結果になる。

 そうしないためには、反乱を徹底的に武力で弾圧するしかない。イスラエルパレスチナでやってるやり方と同じ方式だ。実際既に米軍はイスラエルからいろいろ学習して、そのとおりのことをやっているようだけど、懲罰的に小規模では有効性があるかもしれないが、イラクのような大きい国の広い範囲でそれをやるわけには行かないだろう。それこそ、戦争の理由付け(屁理屈)として大量破壊兵器ネタが失効してしまったので、民主化ネタに切り替えて誤魔化しているのに、一般市民を巻き添えにして大規模に武力弾圧をやったら、何のために戦争をやって占領をしているのか、わけが分からなくなってしまう。今でも分かんないけど。
 それにシーア派は、今までは自分たちの意向が反映されると思っておとなしくしていたけど、そうでないなら立ち上がって戦うだろう。何より彼らは屈服しないだろうから、イラクは第二のベトナムになってしまう。ベトナムでのジャングルは、イラクでは都市になっていて、そこが反占領勢力の隠れられるようになってる。そしてモスクという神聖で犯しがたい治外法権アジール(避難場所)だってある。それに一部でシーア派スンニ派が協力して米軍と戦闘をしてるので、もし日中戦争の時の国共合作のように両派が全面的に手を結んで反乱を起こしたりすれば、ますます米英軍には勝ち目がない。もしそういう武装勢力を相手に戦うとしたら、立て篭もっていそうなところはモスクだろうが女性子供のいる家だろうが、ロケット弾を打ち込んで建物ごと吹き飛ばしてしまうしかない。急ごしらえとはいえ一応「西欧型民主主義!」の国を作るという錦の御旗に掲げてるのに、サダム・フセインのやったことに劣らないくらい残虐なことを本気でやるつもりなのかな。さらに内戦になったら世界中が混乱するし、米国もいろいろな意味でかなりダメージを受けることになる。

 つまりどっちに転んでも米国は勝てない。とりあえずは圧倒的な軍事力で制圧を試みるかもしれない。そして相手の力を探りながら様子を見て、もし勝てないと分かったら、多少はシーア派の要求を受け入れる用意があるとして交渉に入るのではないだろうか。
 米国の弱みは他にもある。巨大財政赤字、大統領選挙。諸外国もだんだん米国を相手にしなくなってきている。この戦争が汚い戦争だったというのが分かってきてるからだ。どう転んでもブッシュに勝ち目はほとんどない。大統領選挙はボロ負けになるのではないかな。


2.邦人誘拐と自衛隊

 そんな状況のところに日本の自衛隊がいるというのは、どうかしてる。それ以前に、そもそも「戦争ビジネス」のために起きた戦争と混乱のなかで、今あそこに自衛隊がいる必要などないのだ。軍事的占領という文脈から切り離された、純粋の「人道支援」なんてありえない。実際に米軍への輸送の請負もやってるわけだし。

 とは言っても、邦人を三人誘拐して、その生命と引換えに自衛隊の撤退を要求するというグループのやり口は悪辣だ。自分たちや家族が同じ目にあったらどうすんのよ。だいたい、別に敵対などしてもいない外国の民間人を誘拐したり殺害するなどということは、イスラム教の教義にも反するはずだ。
 それにしても、ほんらい邦人保護も任務となるべき自衛隊の海外での存在が、それぞれの滞在目的が違うとはいえ、逆に邦人三人の生命の取引材料にされるというのは、なんとも皮肉な話だ。
 ほんとうはイラクなど中東での日本のイメージは想像以上にいいので、日本人に対する攻撃というのは一般のイラク人の反感を買うリスクがある。サマワでのデモが中止された詳細な背景は分からないが、日本人−自衛隊相手にやりづらいという事情があったのではないかという気もする。でも部隊が移動中に石を投げられたりもしたようなので、米軍と同列の占領軍扱いもされているのだろう。戦争による占領といっても、国民国家同士の戦争で負けて正式に降伏文書に調印して占領というわけではなく、とくにシーア派にとってはサダムの軍隊と米英軍が戦ってサダムが負けたのであって、決して自分たちが負けたなどとは思ってないはずだ。サダムを追い出してくれたのはありがたいけど、そもそも何で米国人がこの国にいるのよ? って感じかな。要するに奇妙な占領なのだ。
 だから、もしイラクに行くなら、イラク国民からほんとうに歓迎されるような時期を選んでするべきなのだ。時と場所を間違えた今回の自衛隊派遣は、せっかく中東で良好な対日感情の貯金があったのを、食い潰すことになりそうなものだ。
 それ以前に、そもそもこの戦争と占領は、汚いビジネスによって起こされたもので、自衛隊員はその下請けをやらされているようなものなのだ。そこがおかしいところなのだ。


3.戦争関連業務の民間委託と外国委託

 ITビジネスとか介護ビジネスといった分野があるように、とくに米国と英国では戦争ビジネスというのが、相当な市場規模で想定されてる。要するに彼らは、その分野で巨大ビジネスが成り立つように戦争を画策し、実際にそれを起こしているということだ。そしてそれは、今まで「正規軍」によって行なわれてきた戦争関連の諸々の仕事の一部を、民間企業に発注(民営化)することによって成り立っている。
 有名なのが、チェイニー副大統領の関係してる「ハリバートン」という米石油関連会社とそのグループ企業で、イラク戦争と復興事業で既に1兆円を超える受注をしている。チェイニーはパパ・ブッシュ政権で国防長官をやっていたときにハリバートンに便宜を図り、それから同社に天下っている。そして辞めた今も、株や退職者報酬をもらっている。そんなモロエゴいことが許されるのが不思議だけど。
 そうしてみれば、ブッシュやネオコンの関心がアルカイーダやタリバンではなく、一貫してイラクにあったことも頷ける。国防長官のラムズフェルドが「アフガンよりイラクだ」と言ったというのも、石油の出ないアフガンではビジネスにならないからだ。
って、そんなことは誰でも分かってる話だろうけど。

 日本ではサラリーマンのことをビジネス戦士と言ったりするけど、米国の兵士たちこそ、その巨大な戦争市場の最前線で働くビジネス戦士なのだ。(もっとも、過去の戦争でも軍隊というのは、たいていそうした役割を担ってるけど。) そして200万円程度の年収と引換えに、命を張って「ハリバートン」などの軍事関連企業のために貢献するというわけだ。かわいそうに。でも地上部隊の兵士の多くは、黒人やヒスパニックその他社会の低層にいる人間なので、多少の犠牲が出たところで、政権中枢の連中にとってはべつにどうということはないのだろう。
 とは言え、あまり死傷者が多いと世論もうるさくなる。それで警護などの危険業務を傭兵に肩代わりさせることによって、公式の兵士損傷数を抑えるという方策が採られる。そうして「ブラックウォーター」のような特殊部隊上がりの傭兵斡旋会社にも、ビジネスチャンスが提供されるというわけだ。いまイラクには傭兵が約4000名いるとされていて、この前イラク中部のファルージャで殺された四人の民間人もその一員だ。
 それと民間委託とともに役割を期待されているのが、諸外国の軍隊なのだ。もし占領地の治安維持を下請けしてくれるなら、少しはおいしい目も見られるというわけだ。つまり日本の自衛隊も、下請け業者としてイラクに出張してるということになるのだ。戦争屋の下請けのために、日本の自衛隊員が命をかけたり犠牲になったりする必要は全くない。

 イラクに兵を送っている国はみな、そうした戦争ビジネスのおこぼれ頂戴組だ。でもほとんどは米国企業が独占気味で、英国もあまりおいしいところを貰えていないらしい。それで英首相のブレアはそのへんのことをブッシュに懇願するため、何度か足を運ばざるを得なくなっているということのようだ。ブッシュ政権は自分たちの利益確保が最優先だし、それにブッシュに政治資金を出さないようなところになんか、あまり金を落としてくれないのだ。

 けっきょくブッシュたちの動機が戦争ビジネスにあるので、儲かりそうなところ(イラクなど)で戦争を仕掛けられるなら、開戦の口実は何でも良かったのだ。実際大量破壊兵器がなさそうだということは分かっていても、チンピラがイチャモンつけるのと同じ。「ケンカを売る」と決めて因縁をつけてくるチンピラには、もういくら言い訳しても無駄なのだ。サダム・フセインもまったく自業自得だけど、眼つけられた相手も悪かった、といったところ。

 とはいえ、米国は戦費も経費も膨大になり、昨日のニュースに「新多国籍部隊参加を仏などに要請」とあったようにまた下請け業者を新しい名目で募集しようとしてるけど、そんな話に乗る国、出てくるかな。
 加えてシーア派の一部の反乱でますます手詰まりになりかけてきてるし、それにもし日中戦争の時の国共合作のように、シーア派スンニ派が全面的に手を結んで反乱を起こしたりすれば、ベトナム戦争化してもう米英軍による占領も終わりだ。もしそうなって米英軍が出て行ったあとは、国連が積極的に乗り出す以外にないと思われる。そうでないとシーア・スンニ・クルドの間で収拾のつかない事態になるかもしれないから。もし自衛隊(もしくは国連平和維持部隊)に出番があるとしたら、そういうときこそなのだ。国内での宗教戦争戦や民族戦争は、反占領戦争などよりもっと一般市民には歓迎されない。降って湧いたような占領軍ではなく、内戦を防ぐ目的と復興支援とで自衛隊が行くなら、イラク国民に歓迎されるだろう。またそうした望まれる場面で登場して対日感情ももっと良くなれば、日本製品の積極的購入や取引の増大などに結びつく。それは戦争を仕掛けて物を分捕って仲間内で分け合う汚いビジネスなんかとは違う、古くからの正統なビジネスなのだ。


民営化で加速する戦争 イラク戦争1年(東京新聞
http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20040320/mng_____tokuho__000.shtml
民間軍事会社に秘密のベール…ファルージャ襲撃で注目(読売新聞)
http://www.yomiuri.co.jp/world/news/20040404id25.htm
田中宇の国際ニュース解説
http://tanakanews.com/e0406iraq.htm