ギャラリーでのイコン

近所に小さいギャラリーがあって、現代アートを中心とした展示をやっているのだけど、今日通りかかってなにげに入ってみたら、イコン展をやっていた。日本のイコン画家がロシアのイコンを模写したもので、キリスト教東方正教会で節目となる十二の聖書のテーマが、陶板にアクリルで描かれている。
でもなんていうか、やっぱり文脈から切り離されてギャラリーに美術品として並べられたイコンは、アウラみたいなものが感じられない。アドルノが美術館のことを芸術作品の墓所のようなものだと言ったのとも似て、対象とのたしかな距離関係がとれない。そもそも信仰を持っているわけではないので聖書の物語にたいして外にいる感覚があるし、絵のほうも遠近法やグラディエーションなどないビザンチン様式の平板なものなので、作品に心情的な投影をして鑑賞するという態度もとれないのだ。
イコンというのは、それじたいが崇拝や礼拝の対の対象になるものではなく、イコンを通して神や聖書の世界に触れる媒介の役割をするのだとされている。個人的にはキリスト教のなかでも東方正教カソリックプロテスタントよりも関心を持ってるので、イコンを鑑賞の対象としてではなく、正教会の聖堂という空間で向き合ってみたいと思っていたのだけど……。
それでもアンドレイ・ルブリョーフの有名な「三位一体」というイコンを模写したものがあったりして、三人の天使の羽根が灰黒色になっていたのがちょっと意外な気がしたけれど、少し見入ってしまった。それとイエスの描かれているイコンのなかに、天から地に向かって三方向に放射された黒い「▼」形をした聖霊が描かれていて、霊的なものをそういうかたちで可視化して描くところが、他の宗派と違って聖霊を「父」と「子」と同格に置く正教らしいと思った。
原罪を退け、代わりアブラハムの許を訪れた三人の天使に象徴される神の愛を教義の中心に置くという東方正教。そしてバフチン思想へのロシア正教の影響。

 
『思想 バフチン再考』 2002年8月号 「身体・声・笑い ―ロシア宗教思想とバフチン否定神学的人格論― 貝澤 哉」
↑とてもおもしろかった論考.


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天気はいいのに
なんとなく鬱だ(苦笑)