ARCHIVES OF PEDIATRICS AND ADOLESCENT MEDICINE

この"Arch Pediatr Adolesc Med."というジャーナルは、小児思春期医療分野の専門家たちによる(論文発表前の)評価用 peer-review のネット・アーカイブ。会員になるかその都度料金を払えば、アブストラクトを読んで興味を持ったテキスト全文を読むことができるようになっている。

Arch Pediatr Adolesc Med. 2004 Jun;158(6):545-50.

Characterization of interpersonal violence events involving young adolescent girls vs events involving young adolescent boys

Background Multiple studies have demonstrated that girls are engaging in interpersonal violence. However, little is known about the potentially unique aspects of violent events involving girls.

Objectives To describe characteristics of interpersonal violence events in preadolescents and young adolescents and to determine if events involving any girl are different than those involving only boys.

Design A cross-sectional survey of 8- to 14-year-old patients who were being evaluated at an urban children's hospital emergency department for injuries caused by interpersonal violence was conducted between September 2000 and August 2001. The survey asked the patient to describe details about event circumstances, opponents, weapon use, and injury severity.

Results We enrolled 190 patients into the study; 58 (31%) were girls. Seventy-four events (39%) had a girl involved, 156 (82%) occurred on a weekday, 127 (67%) were classified as fights, 140 (74%) were with a known opponent, and 93 (49%) occurred at school. Events involving girls were more likely than events involving all boys to occur at home (relative risk [RR], 1.6; 95% confidence interval [CI], 1.0-2.5). Both boys and girls reported "being disrespected" and "teasing" as popular reasons for a fight. Events involving girls were more commonly related to a "recurrence of a previous fight" (RR, 6.4; 95% CI, 1.9-21.5), were more likely to end because of adult intervention (RR, 1.7; 95% CI, 1.1-2.6), and have a family member try to physically break up the fight (RR, 3.7; 95% CI, 1.5-9.1).

Conclusion Violent events involving preadolescent and early adolescent girls are more likely to be in response to a previous event and to involve the home environment and family member intervention. Health care professionals should screen violently injured girls for safety concerns and retaliation plans and consider engaging the family in efforts to prevent future events.
 
[拙訳]
「思春期の少女と少年の、対人関係に由来する暴力事件の特徴」

背景:これまでの多岐にわたる研究によって、少女たちが人間関係から生じる暴力に結びついているということが明らかにされてきた。しかしながら、少女がらみの暴力事件に関するこれといった見解は、ほとんど知られていなかった。

目的:前思春期や思春期での人間関係に由来する暴力事件の特徴を述べるとともに、少女がらみの事件と少年だけが関与する事件との有意差を判定することを目的とする。

調査計画:8〜14歳、クロス・セクショナル分析。(以下略)

結果:190の患者を調査対象とした。58件(31%) が少女、74件(39%)が少女を巻き込んだ事件、156件(82%)が平日に発生、127件(82%)がケンカと分類され、140件(74%)が顔見知り、93件(49%)が学校で起きている。少女がらみの事件は、少年だけによる事件よりも、家で起きる傾向がある(relative risk [RR], 1.6; 95% confidence interval [CI], 1.0-2.5)。 少年少女とも、「バカにされた」と「からかわれた」を争いのいちばんの理由として述べている。少女がらみの事件では、概して「以前の争いの再発」に関係していることが多く (RR, 6.4; 95% CI, 1.9-21.5)、大人の介入によって終らせられる傾向があり(RR, 1.7; 95% CI, 1.1-2.6)、(言葉だけでなく)物理的に争いを止めさせようとする家族がいる(RR, 3.7; 95% CI, 1.5-9.1)。

結論:前期思春期や早期思春期の少女を巻き込む暴力事件は、以前に起きた出来事の継起になりがちで、また家庭を巻き込んだり家族の仲裁を招くことが多い。暴力により傷ついた少女たちにたいして医療専門家は、安全性の懸念からも仕返しをたくらんだりする意図からも遠ざけて保護する必要がある。そして今後二度と事件が起きないように、家族も積極的に関わってゆくことが要請される。

最初のHealthDayの記事タイトル(「少女たちは男の子と違ったケンカをする…」)は、男子との違う少女のケンカのやり方や仕返しにフォーカスして付けられているけれど、実際は男女の違いだけでなく共通点についても言及されている。それと少女間だけ(among girls)のケースというより、それらを含めた少女がらみ/少女が巻き込まれた(involving girls)暴力事件について調べられている。

このアブストラクトについては「極東ブログ」(2004.06.19 「女の子の喧嘩には科学的に見て特徴がある」)も言及していた。ただし例のごとく……だけど、基本的に誤読をしてるようなので、そのへんちょっと意地悪に突っ込みをしてみる。

Objectives
To describe characteristics of interpersonal violence events in preadolescents and young adolescents and to determine if events involving any girl are different than those involving only boys.
 
というわけで、女の子同士と男の子同士の喧嘩の差異を調査しようというわけだ。
実験のデザインと結果も、アブストラクトには掲載されているが、率直に言って、たいしたものではない。エンロールも190名と少なく、これではちょっとした学部の卒論といった感じもある。しかし、だからといってこの調査が無意味というわけでもない。
 ―「極東ブログ」(以下、引用は同ブログ)

男女のケンカの違いを調査するのが目的というところで、思いっきし勘違いしてる。
小児・思春期医療の専門家が調査の対象としてるのは、「女の子の喧嘩」というだけではなく、少女と少年が巻き込まれた喧嘩や暴力事件なのだ。被害にあって傷ついた子どもに対するケアと、そのために原因を遡及するのが目的なのだから。
それと、この調査が学部の卒論とか、無意味というわけでもないって……。w いや、あえてコメントはしないけど。

このアブストラクトの出だしにもあるが、我々の社会は、女児の暴力性を女児だからとして過度に抑圧するようにできているため、その自発的な制御が効きづらいのだろう。

アブストラクトはべつに女の子の暴力性については取り上げてはいない。少女のケースとして、報復による暴力の連鎖の防止と、暴力行為の被害者としてどうケアしてゆくかについて語られているのだ。したがって少女の暴力性の社会的抑圧や自発的制御などといった、意味不明の言葉と結びつくものでもない。
あと、例えば、

訳が拙いので、想定されている事態はかなり実際的な暴力だとして、日本の状況とは違うのではないか、という印象を得るかもしれない。が、そうではない。Violent eventsを単純に暴力行為とすると、原義が損なわれやすい。端的には実際の暴力だが、心理面に関わる面もある。

この日本語は何を意味しているのだろうか。調査は(犯罪目的の事件ではなく)人間関係から生じる暴力行為を対象としているので、人間心理が関わってくるのはあたり前なのだけど。
「知の冒険」blogを先に読んで思い込みが入ったのか、それにしても英語も論旨も読めてないでウンチク・講釈を垂れてるのが痛々しい。
 
ところで日本に来た英語圏の人たちは、日本のティーンは幼いということをよく言う。英米人の指摘する日本の若者のコンフォーミズムというのは、同調的行動のことを言っていて、たぶん自我が未発達という印象を受けているのだと思う。(逆に英米人は一般に自我が強すぎる傾向があるけど。) とくに思春期の女の子たちは同調的行動を取りがちだけど、それは自我を形成する殻がまだ柔らかいので「否定」されるのが怖く、それで相互承認で「なあなあ」でやっていこうという意図が働いているものと思われる。否定はないのではなく、ふだんは同調の背後に隠れている。そしてなにかきっかけがあったとき(人から否定されたときなど)に、それが外や内(身体)に――ときには衝動的な暴力を伴って――出てしまうのだと思う。
暴力沙汰に銃まで登場する米国でのケースが、文化の異なる日本にそのまま当てはまるとは思えないけど、調査で指摘されている「バカにされた」というのが衝突の原因になってるということと、少女の場合は少女の場合は以前のトラブルが事件の再発につながっているという点に注目。